「元妻との子供の養育費だから、何とか払わなければ」
離婚したとはいえ、子どもに罪はなく、なんとか生活はしていけるようにお金を払いたい。
それでも、養育費の支払いに頭を悩ませている方は決して少なくありません。
養育費の金額は話し合いか調停などで取り決めされます。
よほどの事情がない限りは支払わなければなりませんが、あなたにもご自分の生活があります。
そこで、「支払わないとどうなるのか?」を押さえておくべきです。
この記事では、養育費を滞納した場合の流れを解説し、あなたの経済的負担を少し軽くする方法をお伝えします。
なお、養育費はたとえ破産しても義務が残ります。「払う前提」で考えるのがベストです。
養育費は育てない側の親が自分の子の養育に必要な費用を負担するものです。
その義務は免れられるものではありません。
ただし、あなたにもご自分の生活がありますので、以下の方法を使って解決しましょう。
養育費が払えないときの解決法
- 話し合いで減額の交渉をする
- 養育費減額調停の申し立てをする
- 相手が再婚したり収入が増えたりしたら減額や払わなくてもいい
- 詳しくは本文を参考にしてください。
養育費の支払えないからは免れられない
子供のいる夫婦が離婚する場合、養育費を巡っていろいろと葛藤や争いがあるケースがほとんどです。
しかし、夫婦間の感情は抜きにして、基本的に子供を育てない側の親は、自分と同程度の生活水準を維持できるだけの「養育費」を払う義務があります。
これは「生活保持義務」といって、未成年の子どもに対して、親が必ず負担するものです。
例え借金まみれであっても、生活水準を落としてでも養育費を支払わなければなりません。
また養育費の支払いに関しては時効がなく、子供が20歳になるまでの間、必ずついてまわるものとなります。
「支払えないから」といってその義務を免れられるものではありません。
養育費は本来「子どもの権利」
離婚時にゴタゴタしていた場合、養育費について決めずに離婚してしまうケースもあります。
しかし子供を育てる側の親は、後からでも養育費を請求することができます。
養育費に関しては親たちの間で取り決められがちですが、本来、子どもにも請求権があるものです。これを「扶養料」と言います。
扶養料は、親が勝手に放棄できるものではありません。
また離婚時に母親が「養育費なんて要らない」と言っていたとしても、離婚後に請求されたらやはり払わなければなりません。
払えないと最悪、差押えになるケースも
「そうは言っても自分の生活が精一杯で払えない…」
監護者でない、つまり育てない側の親がこのような状況の場合はどうなるのでしょうか?
- 相手から親や会社に直接連絡がいく
- 家庭裁判所から催促や命令の連絡がくる
- 強制執行で給料や銀行口座が差し押さえられる
- 1回でも支払わなければ将来の養育費も差し押さえられる
相手から親や会社に直接連絡がいく
養育費を支払っていないと、相手から催促の連絡があるはずです。
養育費の取り決めを口約束だけでした場合に多いのが、払ってくれないからと親や兄弟など身内に請求するケース。
あるいは、「お母さんから○○に払うように言ってください」と身内ルートで請求がはじまることもあります。
こうしたケースでは、口約束に法的効力がないため、相手が感情的に訴えてくることが多いです。
相手の性格によってはあなたの会社へ直接連絡をしてくれる可能性もありますので注意が必要です。
家庭裁判所から催促や命令の連絡がくる
次に、離婚調停など裁判上で養育費を払うことが決まっているケース。
この場合は家庭裁判所(家裁)を通じて支払いをするよう促されます(履行勧告)。
または、「○月○日までに払うように」といった命令(履行命令)が行われることもあります。
10万円以下の違反金を払わされることも
履行勧告も履行命令も、どちらも法的効力はないので強制力はありません。
だからと連絡もせずに払わないでいると、履行命令に対して従わないと見なされます。
違反金である「過料(あやまちりょう)」として、10万円以下の支払いを命じられることもあります。
さらに、離婚時に養育費を取り決めていなかったケースや、離婚時に口約束だったケース、公正証書ではない単なる離婚合意書しか作成していなかったケースでは、家庭裁判所で「養育費調停」を起こされてしまいます。
養育費調停で、養育費の支払を拒絶していると、裁判官が「審判」により、養育費の支払い命令を出してしまいます。
強制執行で給料や銀行口座が差し押さえられる
履行・命令があっても払わない、払えない場合、公正証書がある場合や調停・審判で養育費支払が定められていても支払わない場合には最終手段として、強制執行となる財産の「差し押さえ」が行われます。
離婚する際上記のように債務名義を残していると、養育費の支払いを怠った時、すぐにでも行うよう強制執行がなされます。
債務名義は、以下のようなものです。
- 公正証書
- 調停調書
- 審判書
債務名義があると、相手が義務に従わないときに強制執行(差押)ができるのです。
給料の差し押さえで会社に連絡が
あなたが会社員であれば、まず給料を差し押さえられることになるでしょう。
しかも、差し押さえにあたり会社にその旨の連絡がいきます。
ただし、給料が全額没収されるわけではありません。
*給料の差し押さえ対象*
給与手取り額 | 差し押さえ対象 | |
(1) | 給料の手取りが66万円までの場合 | 1/2まで |
(2) | 給料の手取りが66万円を超える場合 | 33万円を超える全額 |
例)手取り50万円の場合
500,000円÷2=250,000円
上記ケースの場合、毎月250000円が給料から差し引かれることになります。
1回でも払わなければ将来の養育費も差し押さえられる
通常、差し押さえは「現時点」における滞納額が対象です。
しかし養育費に関しては1回でも支払いを怠れば、将来の分の養育費まで差し押さえられる可能性があります。
つまり「18歳まで」「成人するまで」と取り決めた将来分の給料を毎月差し押さえられるだけの、いわば「差し押さえの予約」のようなものです。
ですので、度に将来分を一括して差し押さえられるわけではありませんし、養育費の場合、将来の差し押さえの対象となるのは「給料」だけです。
払えない場合の解決策
では、払えないとどうなるかがわかったところで、あなたに合った解決策を見つけていきましょう。
- 話し合いで減額の交渉をする
- 裁判で減額請求にしてもらう
- 相手が再婚した収入が増えた場合は支払わなくてもいい
話し合いで減額の交渉をする
元配偶者と冷静な話し合いができるのであれば、養育費の額を減らしてもらえるよう「話し合い」をするという方法があります。
まずは「約束したのに申し訳ない」と詫びることからスタート。
- 「給料が減ってしまったから」
- 「再婚して家族が増えたから」
こういったこちら側の都合は、その後に「払えない理由」として説明するようにしましょう。
今後の支払い額や支払方法について見直したら、相手の信頼を得るためにも「公正証書」の作成を申し出ると良いでしょう。
公正証書は、国から認められた公証人が証人となる書類です。
法的効力が強く、払わなければ差し押さえが行われます。
その覚悟があるということを示すことは、「払えない」ことの相手への誠意でもあります。相手も信用して、養育費減額に応じる気持ちになりやすいでしょう。
裁判で減額請求にしてもらう
元配偶者との話し合いが無理な場合には、家庭裁判所に養育費減額調停・審判の申し立てをする方法があります。
そして、改めて支払いの金額や方法を決め直すことになります。
「約束をしたのに支払えないなんて親として失格だ」
あなたが払おうという意思を持っているなら、こんな風に自分を責める必要はありません。
養育費は、その時点のあなたの収入も考慮しながら取り決めをしたはずです。
しかし時間が経てば状況も変わります。
長期入院やリストラなどで急に払えなくなることもあります。
そのような場合には、支払義務者の状況を踏まえて養育費の減額を求める権利が認められています。
前向きに考えて減額の交渉をしましょう。
申し立ての詳細についてはこちらのサイトで確認してみてください。
「裁判所|養育費請求調停」:https://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_07_07/
相手が再婚した収入が増えた場合は支払わなくてもいい
そもそも養育費は一度取り決めたら、ずっと変わらないわけではありません。
元配偶者の状況がこんな風に変わった場合、今後は支払わなくてもよくなったり、減額が認められたりします。
- 離婚の時には仕事をしていなかったが仕事を始めた
- 仕事はしていたけど当時より収入が増えた
- 再婚して、相手と子供が養子縁組をした
- 養子縁組はしていないが実質的に子供を養っている
相手が再婚したのに、それも知らずにいつまでも払っていた…というケースは少なくはありません。
なので、人によっては時折、互いの状況を見直してみる必要があるのかもしれませんね。
まとめ 養育費は子供の生活状況によって減る場合も
離婚後に約束通りに養育費をきちんと払っている人は、わずか20%弱だと言われています。
つまり、80%の人が支払っていないということです。
もちろん、この80%の中には本当に生活が苦しくて払えない方もいるでしょう。
しかし妻に対する憎しみや怒り、とにかく早く離婚をするために相手の要求する養育費でOKしてしまったという方もいるはずです。
では、きちんと払っている20%の方はお金に余裕がある方ばかりなのでしょうか?
決してそうではないはずです。
子供のことを思い、自分の生活を切り詰めるだけ切り詰め、なかには昼夜仕事をしてでも養育費を払い続けている方もいるでしょう。
あなたがどちらを選ぶかは自分で決めるしかありません。
だからといって、あなたが無理をしすぎて路頭に迷うことも望まれてはいません。
お子さんのことをしっかり考えたうえで、あなたにできる最善の方法を選んでください。
監修者:福谷陽子 元弁護士 ライター >プロフィールはこちら |