生活費の中で、個別の出費として最も大きいのは家賃という人も多いのではないでしょうか。
家賃は金額が大きいので、一度滞納すると、次の月に2ヶ月分払うことが難しく、滞納してしまいやすい典型的な費用です。
誰でも知っているとおり、家賃の滞納は重大な契約違反です。
どうしても払えない事情があるにせよ、契約違反については、強硬な対処をされても文句は言えません。
やっぱり家賃を滞納したら追い出されるのでしょうか?
家賃滞納を滞納しても、いきなり追い出されるようなことはなく、次のように段階を踏んで進みます。
- 電話・文書による催告
- 訪問・内容証明郵便による催告
- 明け渡し請求訴訟と強制執行
詳しくは本文を参考にしてください。
まずは契約書の確認
身内同士での貸し借り以外では、契約書を交わして賃貸借契約を結ぶのが通常です。
普段は契約書を目にすることがなくても、契約更新の度に新しい契約書が届きます。
そのため、契約書を失くしているケースは少ないでしょう。
恐らく契約書に書かれているのは、「一定期間家賃を滞納したら借主から契約解除できますよ」とする内容です。
まずは契約書を確認して、滞納したら契約上で何が起こるとされているのか把握しておくべきです。
家賃滞納時の特約と自力救済
家賃滞納は最終的に契約解除へつながります。
家賃滞納時に貸主(大家)ができる措置を特約で定めている契約も多いです。
例えば、契約書に次のような特約がないか確認してみてください。
- 滞納から一定期間でカギを交換(入居拒否)
- 滞納から一定期間で家財道具の処分
- 処分された家財道具は未払い家賃に充当
- 特約に定めた措置が行われても借主は異議がないものとする 等
確かに滞納するほうが悪いとしても、カギ交換で強制的に閉め出す、家財を勝手に処分など許されるのでしょうか?
この点について、裁判所は概ね否定的な見解です。
家賃を滞納した借主に対して、法的な手続を経ずに貸主である大家の都合で上記のような対抗措置を取ることは、「自力救済」と呼ばれており禁止されます。
たとえ契約書に書かれている通り行われても、貸主が自力救済を行った場合には、賃借人の方から大家へと損害賠償請求を起こすことも可能です。
ただし、それ以前に家賃を滞納している自分が悪いのですから、滞納家賃の支払いに誠実な対応が必要なのは言うまでもありません。
電話・文書による催告
家賃滞納したときに最初に行われるのは、電話や手紙・ハガキによる催告です。
家賃を大家に直接払う場合は大家から、家賃保証会社を使っている場合は家賃保証会社から催告されます。
家賃の未払いが確認されてから、いつ催告されるのかは決まっておらず、数日で催告される場合もあれば、1週間、2週間ということもあります。
相手しだいですが、家賃の催告は比較的早期に行われることが多いです。
一度滞納すると今後も滞納するおそれがある
冒頭で説明したように、家賃は生活費の中で大きな割合を占めていることもあり、一度滞納が始まると、翌月以降も滞納することが容易に予測されます。
そうなると、滞納家賃を回収しても、翌月分でまた同じ状況となってしまいます。
そこで家主は早期に督促せざるを得ないのです。
ただこの時点では、何度も滞納を繰り返していない限り、きつい口調や文章が使われることはありません。
いつまでに払うと約束すれば、比較的簡単にやり過ごせます。
家賃保証会社について
以前まで、住宅の賃貸借契約では家賃の滞納や損害に備えて、保証人を立てるのが普通でした。
しかし、保証人になってくれる人がいない借主もいますし、大家としても保証人に請求する手間があるので、保証人の代わりとなる「家賃保証会社」が登場しています。
家賃保証会社は、家賃の滞納があると借主に代わって家賃を払います。
しかし、これは単なる立て替え払いで、家賃保証会社は立て替えたお金の回収をしなくては損をしますよね。
ですから、家賃保証会社を使っていると、滞納家賃の請求権は家賃保証会社に移ります。
大家ではなく家賃保証会社から支払いを催告されるわけです。
訪問・内容証明郵便による催告
電話や文書の催告では賃借人が家賃を支払わない場合、直接訪問して払うように請求するか、内容証明郵便を使って催告されます。
電話は着信拒否されますし、手紙・ハガキは無視されることがあるので、訪問して直接言ったほうが効果が高いからです。
この時点になると、大家や家賃保証会社との関係が悪化し、信頼が失われている状況です。
契約は信頼関係で成り立ちますから、既に契約解除も視野に入っています。
訪問は滞納が1ヶ月でも行われますが(大家や家賃保証会社しだい)、内容証明郵便は滞納が3ヶ月以上の長期になっている場合に送られてくる傾向があります。
内容証明郵便は単なる督促とは異なりますので、少し詳しく解説しておきましょう。
- 内容証明郵便とは
- なぜ内容証明郵便を使うのか
- 内容証明郵便に書かれている内容
内容証明郵便とは
内容証明郵便とは、送った文書の内容を日本郵便が証明してくれるものです。
具体的には、郵便局に謄本(写し)を保管することで、「この内容の文書がいつ送られた」と証明できる仕組みです。
しかしながら、内容証明で「送られた」証明ができても、相手がその文書を「受け取った」と証明できなければ、後から知らなかったと言われかねませんよね。
そこで発送者は「配達証明」を同時に使い、「この内容の文書を相手が受け取った」と証明します。
なぜ内容証明郵便を使うのか
家賃の滞納で明け渡し請求訴訟を起こしても、裁判所は客観的に判断して解除がやむを得ない場合を除き、明け渡し請求を認めません。
いくら家賃の滞納があるとはいえ、借主から強引に住居を奪ってしまうのは厳しすぎるからです。
そこで、家賃の滞納が長期間であること、何度催告しても借主が払わなかったことを、合理的に証明する手段として内容証明郵便が使われます。
要するに内容証明郵便は、訴訟に向けて証拠を残すためのものです。
内容証明郵便に書かれている内容
家賃滞納での内容証明郵便は、ある程度形式が決まっています。
- 滞納期間と滞納金額
- 支払期限
- 支払いがない場合には契約解除の旨
内容証明郵便での支払期限は、せいぜい1週間から10日程度です。
既に家賃を何ヶ月分も滞納していれば全額払うのは難しく、訴訟に進む可能性が高くなります。
明け渡し請求訴訟と強制執行
契約解除を予告して、滞納家賃の支払いを求めても借主が応じないと、明け渡し請求訴訟を起こされます。
これまでと違い、裁判所から訴状が送られてくるので、訴えられたことはすぐにわかります。
建物の明け渡し請求を行うためには、前提として賃貸借契約の解除を必要とします。
この契約解除の事実を証明するのが、事前の内容証明郵便です。
- 家賃滞納が長期
- 複数回の催告
- 契約解除を予告した催告
- 依然として家賃が支払われない
これだけ条件が揃うと、信頼関係が完全に失われたことを理由に、契約解除が認められやすいです。
契約が解除されてしまえば、借りているのではなく不法占拠ですから、明け渡し請求も認められます。
もし、訴訟を起こされた時点で滞納家賃を払うと約束しても、家主は既に応じてくれないケースが多いです。
訴訟の前に支払いのチャンスは何度も与えられていたにもかかわらず、全て無視してきた信用できない人間だと思われているはずです。
何度も催告が行われ、訴訟まで最低でも4ヶ月以上。
裁判の期間も入れると、6ヶ月~1年は時間がかかります。
その間も滞納を続けると金額は相当膨らみ、支払いが困難になります。
滞納分を支払って家に住み続けたいならば、そうなる前に早めに払ってしまいましょう。
強制執行について
明け渡し請求訴訟で敗訴すると、借主には判決に従って出ていく(建物を明け渡す)義務があります。
判決確定後も出ていかないと、強制執行が行われます。
強制執行とは、判決や調停などで決まった内容を強制的に実現するための手続きです。
この場合、大家の利益(建物の明け渡し)を実現するため、借主は強制的に追い出されます。
裁判所の執行官が訪れて、借主は外に連れ出され、家財道具も運び出されて売却されます。
抵抗が予想されるときは、警察へ協力を求められるケースもあります。
そのくらい、強制執行は実効性が高い手続きになっています。
滞納したときの対応策
家賃を滞納した・滞納することが確実な状況では、大家や家賃保証会社から連絡が来る前に、こちらから連絡するべきです。
強硬な手段を選択されないために重要なのは、「人間としての信用」だからです。
もちろん、「お金を払わなくても大丈夫」とは言ってくれません。
ですが、一方的な契約違反をしているのに、何も言ってこない相手ほどタチが悪いと思われます。
誠実な対応が、少しでも猶予を貰うための最低条件です。
その上で、お金の準備ができないか考えてみましょう。
強制的に追い出されるのは何ヶ月も先の話です。
今は滞納しても、いずれ払える状況を目指して仕事・バイトを探す、安いところに引っ越す、物を処分するなどできることはあるはずです。
- 滞納分を分割にしてもらう
- 家賃そのものを下げてもらう
こうした交渉によっては負担が減る場合もあります。
ただし、訴訟を起こされる段階まで滞納している場合、家族や友人に打ち明けて、お金を借りてでも払ってしまわないと危険です。
どうしてもアテがないのなら、キャッシングを利用する、という手もあるのではないでしょうか。
まとめ 家がなくなるのは、デメリットしかない
食べる物や着る物は我慢できても、野外での生活を我慢できる人は多くありません。
家賃の滞納は、最終的に追い出されるリスクが伴います。
何ヶ月も滞納しないのが一番ですが、もう手遅れになっているのなら最低でも1ヶ月分を払いましょう。
訴訟を起こされないようにすること、必ず全額払うと約束することが大切です。
監修者:福谷陽子 元弁護士 ライター >プロフィールはこちら |