「所得税、滞納してるんだけど大丈夫?」
サラリーマンやOLの方は会社から自動的に引かれているので、ピンとこないと思います。
個人事業主の方や会社を経営されている社長さんにとっては、所得税を滞納しているとどうなるかはかなり気になるところ。
- 「延滞金っていくらぐらいつくの?」
- 「差し押さえってどのぐらい滞納しているとされちゃうの?」
- 「倒産寸前でどうしても払えないんだけど…」
そんな心配をされているあなたに向け、個人事業主であれば「個人事業税」。
会社であれば「法人税」(以下「所得税」)を滞納しているとどうなるか、解説していきましょう。
原則として、督促状が届いたら10日に以内に払わないと、いつ差し押さえが来てもおかしくないと思っていてください。
最近は悪意のある滞納者が増えた影響で、税務署や自治体の対応が年々厳しくなっています。
ただし、「払う気持ちはあるけど払えない」という方には分納や免除という緩和措置もあります。
落ち込んだり投げやりになったりせず、前向きに取り組んでいきましょう!
払えなければパソコンやコピー機まで差し押さえの対象に
結論から先にお伝えしますが、所得税を滞納し続けると、最終的には「差し押さえ」というペナルティが課せられます。
すると、現金や不動産、車はもちろんのこと、場合によってはパソコンやコピー機、机や椅子まで、換金できそうなものはすべて持って行かされてしまうことになります。
中には、営業用の車が差し押さえによりタイヤロックをされ仕事にならず、一家心中をはかった中小企業経営者もいるほど。
納税は国民の義務ですし、キチンと払っている人から見れば「払えないのは自分たちの責任」と言われてしまいます。
そうならないためにも「納税緩和措置」を活用し、1日も早く安心して暮らせるようにしなければなりません。
督促から差し押さえになるまでの流れは概ね以下の通りです。
- 督促状
- 電話や訪問での催促
- 差し押さえのための財産調査
- 差押通知書・差押予告書
- 差し押さえ実行(強制執行)
法人の所得税滞納は個人の財産は差し押さえの対象外
個人事業主や会社経営者にとって、「差し押さえ」は最悪のシナリオ。
大事な仕事や会社を手放さなければならない事態に陥ってしまう可能性が高いため、督促が来た段階ですぐに手を打つのがベストです。
ただし法人の税金滞納の場合、代表取締役の社長個人は責任を負いません。
代表取締役は「個人」、法人は「法人」として別扱いされているため、所得税を払えなかったからといって個人の財産を差し押さえられることはありませんので心配は無用です。
個人事業主の場合、以下のようなものが差し押さえの対象外となります。
- 生活に必要な家具や寝具
- 台所用品や洋服
- 3カ月分の食料や燃料
- 仕事をする上で必要な道具
例:Webデザイナーであればパソコンやスキャナー、パン屋であれば業務用のオーブンや冷蔵庫
納付期限を過ぎて2カ月以内なら延滞金も安い
では、次に滞納した場合につく延滞税についても解説していきましょう。
個人事業主と法人では所得税の納期が異なりますが、納期を1日でも過ぎれば「滞納」としてみなされ延滞金(延滞税)がかかることになります。
では、延滞金はいくらぐらいかかるのでしょうか。
延滞金の対象となるのは、納期の翌日から払い終えるまでの期間に対して、以下の割合で「延滞税」が課せられます。
- 納期限翌日から2カ月まで・・・年7.3%
- 納期限翌日から2カ月以降・・・年14.6%
ただし、その割合は、その年によって変わります。
何年度分を延滞しているかによっても異なりますので、以下の表で確認してください。
延滞税の割合 (単位:年%) | ||
期間 | 納期限翌日から2カ月まで | 納期限翌日から2カ月以降 |
平成23年度 | 4.3 | 14.6 |
平成24年度 | 4.3 | 14.6 |
平成25年度 | 4.3 | 14.6 |
平成26年度 | 2.9 | 9.2 |
平成27年度 | 2.8 | 9.1 |
平成29年度 | 2.7 | 9.1 |
平成30年度 | 2.6 | 8.9 |
原則として14.6%となっていますが、平成26年度以降は特例基準割合が施行されています。
それでも100万円の所得税だとすれば、延滞税は年89,000円です。(平成30年度の場合)
2カ月以内に払えば延滞税を最小限に抑えることができますので、できるだけ早めに済ませてしまいましょう。
ちなみに個人事業主の事業に対する所得税は「国税」、会社の所得税(法人税)は「国税」、会社のある都道府県・市町村への住民税は「地方税」として扱われます。
差し押さえを免れようと財産を隠せば刑事罰に
督促状が手元に来るまでの日数は、個人事業主の場合、所管の税務署によって異なりますが、概ね納期限から1カ月以内です。
この督促を無視していると、滞納処分として「差し押さえ」が行われます。
その期間は、督促状が発送されてから原則として10日まで。
その日までに完納しなければ、あなたの財産は差し押さえられ、換金されて税金に充てられてしまう可能性が高くなります。
「じゃあ差し押さえで持っていかれないよう、ゴルフクラブの会員権や金貨、現金を隠したらどうなるの?」
この場合滞納処分を妨害したとして「滞納処分免脱罪(※)」という刑罰を受けることになります。
ペナルティとして罰金や懲役を科せられることもあり、過去には裁判になった判例もあります。
※国税徴収基本通達主要事項第10章 罰則第187条関係 滞納処分免脱罪
原則1年の分割払いが可能な「納税の猶予」
では、払いたいけど払えない場合にどうすれば良いのでしょうか。
悪質な滞納者には適用されませんが、払う意思がある納税者に対しては国が「納税緩和措置」という制度を設けています。
- 納税の猶予
- 換価の猶予
納税の猶予
「納税の猶予」は分割で支払うことができる制度で、猶予期間中は延滞税が免除されます。
猶予期間は原則として1年以内です。
ただし、誰でも猶予が受けられるわけではありません。
納税の猶予を受けるためには「納税の猶予申請書」を提出する必要があります。
- 震災や風水害などの災害や盗難
- 生計を一緒にしている親族が病気、または負傷
- 事業の廃止、休止
- 上記に類する事実があったこと
- 本来の期限から1年以上経過したあとに、修正申告などで納付する税金額が確定したこと
そのためには、まず「納税の猶予申請書」を提出する必要があります。
また原則として担保が必要になります。
その後、猶予に該当すると認められると「現在納付能力調査」が行われます。
正式に許可が下りれば、以後は督促や差し押さえを受けることもなくなります。
換価の猶予
「換価」とは、差し押さえられた財産を公売にかけて換金(換価処分)すること。
「換価の猶予」は国税徴収法第151条により、差し押さえた財産を換金せず分納で支払うことを認めるという制度です。
また、換価の猶予を受けられた場合にも、新たに差押を受けることはありません。
換価が猶予される要件はいくつかありますが、「納税について誠実な意思を有している」「換価によって生活や事業の維持が困難になる」などが必要です。
また分納になった場合、支払いをできるだけの収入の見込みがあるかどうかも、猶予が認められるかの決め手となります。
倒産の危機でもあきらめず、まずは相談窓口へ
では、赤字続きで支払える見込みがない場合はどうなるのでしょうか。
- 「倒産(もしくは休業)に追い込まれてしまい、どうしても払えない」
- 「経営状態が良くなりそうになく、このままだと完納するまでに何十年もかかってしまいそう」
生活保護が必要なほど困窮しているなら「滞納処分の停止」という緩和措置もあります。
一定の要件さえ満たせば、納税義務がなくなる可能性もあります。
「もうダメかも…」と弱気にならず、すぐに管轄の税務署に相談に行きましょう。
また税務署で「取り合ってもらえない」「対応に不服がある」といった場合、自営業の方は「全商連(全国商工団体連合会)」という団体に相談してみるのもありです。
会員になる必要はありますが、「民商(民主商工会)」と呼ばれる窓口が全国に600もあります。
相談・交渉もしてくれますので、特に滞納額が多い場合は非常に心強い味方です。
まとめ 督促が届いたら「誠意」をもってすぐに相談すること
いずれにせよ、大切なのは督促が手元に届いた段階で払えないのであれば、すぐに担当者に連絡をとり相談をすること。
いったん差し押さえになってしまうと、原則として延滞税も含めすべてを払い終えない限り、差し押さえを寛恕することはできません。
まずは「払いたいけど払えないのでどうしたらいいでしょうか?」と誠意を示すことが大切なのです。
一番やってはいけないのが、払えないからと督促状を「放置」してしまうこと。
これでは何ら解決しないばかりか、仕事や事業、会社そのものの存続にも影響を及ぼしかねません。
まして、今は滞納者に対しての対応が厳しくなっていますので、督促状が届いたら迅速に対応しましょう。
監修者:福谷陽子 元弁護士 ライター >プロフィールはこちら |