- 「せっかく相続したのに相続税が高くて払えない」
- 「相続税が払えないと家を売る以外に方法はないの?」
あなた今、こんな疑問や不安を抱えて悩んでいませんか?
特に家や土地を相続した場合、手元に税金を払うだけのお金がなければ実際に払うことはできませんよね。
かといって相続した家が「すぐに売れる」「相続税より高く売れる」という保証もありません。
このページでは相続税が払えなくなってしまった場合の解説と、その解決方法をお伝えします。
税務署では、個人が確定申告をした段階で、「この人が亡くなれば相続が発生するな」とリストアップされているといわれています。
そういった人が相続税を払わないでいると税務調査が入ります。
しかし、税務調査が入ってから支払うと印象が相当悪くなり、「故意」「悪意」があると判断されれば刑事罰が下ることも。
そうならないためにあなたがやるべきことは、払えないとわかった段階ですぐに税務署へ相談に行くこと。
解決法としては、
- 年払い「延納」にしてもらう
- お金で支払う代わりに相続した財産を提供する「物納」
という方法があります。
大切なのは「払えないからどうしよう」と先延ばしにするのではなく、すぐに相談に行くこと。
それが「払いたいけど払えない」という「誠意」を示す第一歩です。
また「延納」「物納」以外にも、納税分を金融機関から「借りる」という方法もあります。
詳しくは本文を参考にしてください。
相続税がかからない人とかからない人の違い
そもそも、すべての相続のケースで相続税が発生するわけではありません。
基礎控除を超えた分についてのみ相続税がかかります。
「3,000万円+600万円×法定相続人の数」(基礎控除額)
この計算式だけではちょっとピンとこないと思いますので、わかりやすく例を挙げてみましょう。
夫婦と子供が2人いる家庭でご主人が亡くなった場合
- 基礎控除・・・3,000万円+600万円×3人=4,800万円
- 財産の総額・・・8,000万円
- 相続税がかかる金額(課税対象額)・・・3,200万円
この場合、相続した財産の総額は8,000万円。
基礎控除の4,800万円をひいた、3,200万円に相続税が発生するということになります。
遺産額が基礎控除額以下の場合、相続税はかかりません。
また生命保険や死亡退職金が発生する場合、500万円×法定相続人の数が非課税枠となります。
相続から相続税の申告までの流れ
- 死亡届の提出
- 遺言書の確認
- 遺産を調べる
- 被相続人(亡くなった人)の所得税申告
- 誰が相続するか決める
- 遺産の分配
- 遺産の名義変更や不動産の移転登記
- 相続税の申告
以上が基本的な流れとなり、4~6は順番が前後することもあります。
申告までの期間は相続税法第27条により「被相続人が死亡した翌日から10カ月以内」と決められています。
例えば、3月5日に亡くなったのであれば、翌年の1月5日が申告期限となるわけです。
相続税対象者は確定申告時からリストアップされている
自営業で確定申告をしている方の場合、相続税が発生する前から、税務署は対象者をしっかり把握しています。
所得税の確定申告データをもとに、亡くなった際に相続税が発生する人をリストアップしているのです。
誰かが亡くなれば役所から税務署へも通知が行きます。
その人が不動産を持っていれば、その情報も税務署に伝わります。
それにもかかわらず、相続税の申告をしなければ、税務署から相続人へ連絡が行くようになっていますので、財産を隠したり、誤魔化したりすることはできません。
期限を過ぎて催促の連絡が来てから申告を行うと、無申告加算税などを足されて納税額が大きくなります。
期日までに払わなければ税務調査が入る
では、具体的に払えないとどうなるのかについて見ていきましょう。
納付期限までに払わなければ、税務調査が入ります。
【机上調査】とは?
- 実地調査のための机上での調査
- 財産の管理や区分などを事前に調べる
【実地調査】とは?
- 税務官の立会いのもと行われる
- 金庫や通帳、印鑑の保管場所などを開けて確認
- 貸金庫があれば税務管が同行
実地調査では多くの場合、2人1組で税務官がやってきて、1~2日程かけて調査されます。
その後、税務署から申告をするよう催促されます。
催促を無視すれば予想以上のペナルティが課せられる
催促の連絡が来る前、もしくは催促がきたらすぐに申告をすれば、「うっかり忘れていた」「忙しかった」といった言い訳も通じます。
このタイミングであれば、延滞税を払えば済むか、状況によっては延滞税を払わなくてもすむ場合もあります。
では、この催促を無視しているとどうなるのでしょうか。
「誠意がない」とみなされれば15%の追徴課税(無申告加算税)をかけられる恐れがあります。
また「悪意がある」とみなされた場合は、40%の追徴課税(重加算税)、加えて懲役や罰金を科せられたりすることもあります。
ですので、せめてこの段階で手を打つようにしてください。
兄弟が払えなければ、あなたに支払い義務が発生
相続税には「連帯納付義務」があります。
もしあなたが相続税を払えない、払わない場合、他の相続人が代わりに払わなければならないというものです。
この逆も同じで、例えば親からの相続で兄弟が払えない場合、あなたはきちんと相続税を払っていたとしても、兄弟の分も払う義務があるということです。
相続されるものが「現金」や「預貯金」であれば、そこから払えばいいのですが、「不動産」のように簡単に売却できない財産も多くあります。
「払えない」とわかった段階で管轄の税務署に出向き、事情をきちんと説明し分割(延納)で払えないか、相続した財産(物納)で払えないかを相談しましょう。
納付期限を過ぎて2カ月以内なら年利は2.8%
期限を過ぎても相続税を払わないでいたらどうなるのでしょうか。
相続税は原則として現金一括納付となり、納付期限を過ぎても払わなければ翌日から延滞税が発生します。
- 納付期限の翌日から2カ月以内 → 年7.3%と「前年の11/30の公定歩合+4%」のいずれか低いほう
- 納付期限後2カ月を超えた場合 → 年14.6%
申告に不正があった場合は年利40%がつくことも
「じゃあ、相続したことを申告しなければいいんじゃない?」
大切な人を亡くし、何の気力もない…こう思ってしまいそうになるのもムリはありません。
しかし、申告をしなかったり、申告内容をごまかしたりすれば高いリスクがつきまといます。
追徴課税の税率は2017年以降改正され、上がっているので要注意です。
場合によっては脱税で逮捕され、罰金や懲役を科されることになります。
【過少申告加算税】
過少申告加算税は、申告期限内に申告した金額に不足があった場合に課せられる税金です。
早めに修正申告をすれば課税されないケースもあります。
追加で発覚した納税の金額×年利10%×延滞日数÷365日
追加納税額が「50万円」または「申告した税金」より高い場合、年率は15%に上がります。
【無申告加算税】
無申告加算税は、「うっかり」や「先延ばし」にしていたため期限後に申告した場合に課せられる税金です。
申告期限から2週間以内 | 2週間以上 | |
自主的に申告 | 0% | 納税額×5%×延滞日数÷365日 |
税務調査 | 納税額×15%×延滞日数÷365日 (納税額が50万円を超える場合、20%) |
【重加算税】
重加算税は、故意に申告内容を偽ったり、隠蔽したりした場合に課せられる税金です。
隠蔽や虚偽による過少申告 | 追加で納付する税金額の35% |
隠蔽や虚偽による無申告 | 申告した税額の40% |
悪質なら相続者には10年の懲役か1,000万円の罰金
では、督促が届いても無視していたらどうなるのでしょうか。
最悪は「脱税」の罪で逮捕され、罰則を科せられます。
罰則の内容は以下の3種類によって異なります。
- うっかり申告し忘れた「単純無申告」
- 提出できたはずなのにしなかった「故意の申告書不提出」
- 偽りや不正な方法で申告の内容をごまかした「不正無申告」
【不正無申告の場合】
10年以下の懲役、もしくは1,000万円以下の罰金
【故意の申告書不提出】
5年以下の懲役、もしくは500万円以下の罰金
【単純無申告】
1年以下の懲役、もしくは50万円以下の罰金
「罰金が1,000万円!?」と驚いた方もいますよね。
相続したものが何億、何十億になる方にとっては、たかが1000万円…と思うかもしれません。
しかし相続税を払わず、脱税者扱いになれば立派な犯罪者です。
今は税務署も国税局とPCで一元管理されています。
特に海外不動産や金融資産、FX取引、仮想通貨については今後ますます厳しく取り締まられるでしょう。
また、悪質な場合10年以下の懲役刑になる可能性もあるのです。
「適当に誤魔化してしまおう」と放り出していると、前科者の肩書きがついてしまい、人生が変わってしまいます。
相続税が払えない時の2つの対応策。延納と物納
では、相続税が払えない場合の解決策としてはどのようなものがあるのでしょうか。
相続税が払えない場合、2つの方法で支払うことが可能です。
- 延納
- 物納
では、詳しく説明していきます。
延納
相続税は通常、一括で払います。
しかし、一度に払えない場合は「延納」という方法を利用しましょう。
利子(利子税)はつきますが、決められた期間に毎年一定額を支払う「年賦」払いにすることができます。
延納期間と利子税は、相続する内容によって変わってきます。
- 延納期間(最高) → 5年~20年
- 利子税(年割合) → 2.1%~6.0%(特例割合を含む)
不動産を相続した場合は以下のとおりです。
延納期間と利子税割合 | |||
相続財産に対する割合 | 延納期間 | 利子税(年) | |
50%未満 | 立木以外 | 5年 | 6.0% |
立木 | 4.8% | ||
50%以上75%未満 | 不動産 | 15年 | 3.6% |
動産 | 10年 | 5.4% | |
75%以上 | 不動産 | 20年 | 3.6% |
動産 | 10年 | 5.4% |
延納を利用するには、以下の条件をクリアする必要があります。
- 相続税が10万円を超えている
- 一括で払う(納付)ことが困難
- 不動産や国債などの担保が提供できる
- 期限までに「相続申告書」と「延納申告書」を提出している
担保については、延納税額が100万円以下、延納期間が3年以下であれば、担保は提供しなくても大丈夫です。
担保として提供できるものがない場合、保証人を立てることも可能です。
返済能力があり、税務署で保証人として認めてくれそうな人がいれば頼んでみましょう。
物納
「延納」でも相続税を払うのが難しい場合には、「物納」という方法を利用しましょう。
延納手続きをしたけど、延納でも払えなくなった場合には、延納から物納へ切り替える(特定物納)ことも可能です。
物納を利用するには、以下の条件をクリアする必要があります。
- お金で払うことができない
- 延納でも支払うことが困難だという正当な理由がある
- 物納で提供する財産が払うべき納税額に見合っている
- 期限までに「相続申告書」と「延納申告書」を提出している
また、提供する財産には優先順位がつけられています。
- 第1順位・・・(1)国債、地方債 (2)不動産、船舶
- 第2順位・・・(3)社債、株式、証券投資信託、貸付信託の受益証券
- 第3順位・・・(4)動産(車や家具など)
上位から物納する決まりがあります。
例えば第1順位の不動産があるのに、第2順位の株式を提供することは認められていません。
また、物納する際には相続税評価額による評価となります。
特に不動産の場合には時価より安くなるので、できれば市場で売却して現金で支払った方が得です。
銀行など金融機関から納税分を借りる
相続税を払うための資金を「金融機関から借りる」という方法を検討してください。
まず、不動産の売却を前提に、売却できるまでの「つなぎ資金」的に銀行などから借りる手段があります。
また不動産を手元に残しておくために税金全額分を借りて、毎月返済していくこともできます。
例えば、相続税が3,000万円で一括では張払えないけど、安定した収入はあるし、親が残してくれた家は売りたくない。
こういった場合は、銀行から借りて納税し、銀行へ毎月返済していく方法をとります。
もちろん銀行から借り入れると利子がかかりますが、「延納」にしても利子税がそれなりにかかります。
今は銀行借入の金利もかなり落ち着いていますので、金融機関に相談してみるのもいいかもしれません。
督促が届いたら「誠意」をもってすぐに相談すること
相続税は「親や身内から引き継いだお金(財産)」。
そのため「払える」ということが前提になり、払わなければ「脱税」とみなされてしまいます。
ですが家や土地のようにすぐに売却が難しい不動産を相続した場合、「払いたくても払えない」という事態が発生します。
今回ご紹介した「延納」「物納」「借入」という方法は、そうした場合に有効です。
相続から実際に納付するまでには10カ月の期間があります。
その間、税務署に申告する前段階で相続税を減らすための節税方法もあります。
弁護士や税理士など専門家に相談すれば、細かくヒアリングを行い少しでも税金が安くなるよう対応してくれます。
一人で悩まず相談してみてくださいね。
監修者:福谷陽子 元弁護士 ライター >プロフィールはこちら |